私は雌(メス)です

サルデーニャ島の目的地・西海岸の中央、

カブラスと言う街の小さな農家民宿が今日から私の滞在先だ。

 

民宿の名がどうしても思い出せない。

 

 

お父さんのアンジェロ、お母さんのアンジェラ、

長男、次男、三男と3人の子供達(と言っても全員大人)が

 

全員で食卓を囲んで待っていてくれた。

 

玄関からサンドロに促されてキッチンに入ると、

 

みんなの視線が熱い。

 

 

お母さんのアンジェラはまじめそう。

ナポリ人のような気軽な陽気さはない。

 

お父さんのアンジェロは白髪で、ずいぶん歳をとっているように見える。

こちらも落ち着いた物静かな感じのお父さん。

 

 

食卓の席に促され、さっそく皆で昼食を食べながら、

 

迎えに来てくれた末っ子のサンドロがぺらぺらと話し始める。

 

 

僕は大学で法律を学んでいるんだ、や、

長男はなんと神父だという。

 

えーーーーーーーし・ん・ぷ !!!

私は、初対面なのに、こんなノリでリピートした。

 

 

だって、

全くそんな風に見えないんだもん。

とはその場で言わなかったが、

 

「神父さんは実家で食事をするのか?」なんて

バカな質問をした。

 

皆笑いながらそりゃするよと。

 

それぞれの神父に実家があり、

近ければ自由時間に何をしてもいいというようなことを言っていた。

 

しかもその神父の息子、

食事中なのに、暑いからか、上半身裸だ(笑)

 

眼鏡の奥の目はまじめそうではあるが、

 

全体から醸し出す雰囲気は神父には見えない。

かなり柔らか系の神父(ありえーーーんと何度も心の中で思う)

 

普段は家から2時間近く離れた教会にいるらしい。

そこで日々の教会のお勤めをし、

 

その日はたしか日曜日の昼だったと思うが、

 

 

その日曜日のランチの時間に長男はその席にいたのだ。

フランコと言い、神父さんが普通の家にいる、こと自体、

理解不能で、

 

頭がこんがらがった。

 

 

サンドロは、すぐに打ち解け、

話題は私の「働かしてくれ」の手紙の話題にうつった。

 

そして笑い出し、

 

私は手紙に、

 

「私は日本人で名はレイコといいます」

 

イタリア人の名前は、

最後がO(アルファベットのオー)で終わると、

男性の名なので、

 

 

REIKOを、男と思われないよう、

「女性です(femmina)」って書いたつもりが、

 

femminaは動物の「メス」に使うらしく、

 

サンドロはそれを突っ込んで、みんなも爆笑していた。

 

 

多分手紙を初めて読んだ時にはもっと笑ったに違いない。

 

(私心の中で)え~~femminaって動物のメスに使うんだ~恥ずかしすぎる~

 

飛んだ恥をかいた始まりだった。

 

 

とにかく人がたくさんおり、

質問もたくさんだったので

 

最初の食事のことはあまり覚えていない。

 

 

そしてランチタイムが終わり、食器洗いもさっそく手伝い、

その後は部屋に案内された。

 

2階の納戸を少し整えたような狭~~~い(畳3畳欠けるぐらい)

 

細長いウナギの寝床のような部屋だった。

 

ただし窓はあり陽が入り、タンスや机もちゃんとある。

 

 

ここでどんな生活が始まるのか、

そしていつまでここで働けるのか、

 

まったくこの時はわからなかったが

 

夏のシーズンに希望のところで働けるのには

ありがたくって最高に嬉しかった。

 

すごく暑いので食後はおねんね(ジェスチャーで)の時間、と言われ

夕方になったら降りておいでとお父さん。

 

 

そして陽が少し傾いた頃に下に降りると、

 

もうすでに皆エスプレッソで一服している。

そして知らない顔がさらに増えている!

 

長女のベティとその子供フランチェスカ小学低学年の女の子、

すんごいくりくり頭がかわいい息子のファビオ、

 

物珍しそうに東洋人の私を遠くからじっと様子を見ている。

 

そして次男の彼女ロベルタ(ロビーと呼ばれている)、三男サンドロの彼女もいた。

 

みな、私を見物にしに来たのだ。

 

 

日本人が来る!と

 

しゃべっていたんだろうな~と想像できる。

 

長女のベティがとっても気さくで、

小学校の先生をしているそうで

滑舌もよくはっきりと彼女のイタリア語はわかりやすい。

 

そしてお決まりの根掘り葉掘り質問の嵐!

 

ある程度はオブラートにくるみ、

私は「オリーブオイルのインポーターになる」ははっきり告げた。

 

べティア、「なるほど、それはいいわね」、と

ピカピカの瞳で同意してくれた。

 

見れば見るほどここに住む人たちの

顔立ち、風貌は本島のイタリア人とは全く違う。

 

 

それが不思議だった。

 

 

バカンスシーズンは既に始まっており、

宿泊のお客さんがちらほら民宿に帰ってきた。

 

昼間はみな海に行っているそうで

 

夕方陽が沈むと、

いろんな人たちが海から戻り

 

こんなに人が泊まっているんだと驚いた。

 

 

途方もなく遠いところに来た疲れと、

知らない家に入った緊張感と、

人の多さに頭が付いていけなかった。

 

 

そして夕方になると早速料理が始まる。

 

何とこの家の料理担当はお父さんのアンジェロだという。

彼の指示に従って、

 

私は芋の皮むきをした。

ここでの初仕事は芋の皮むきだった。

 

 

次号に続く