マリアの家

結局おっかないおばさんの下宿は1ヶ月でギブアップ。

 

やれやれ。

学校は、

別の下宿を直ぐ斡旋してくれて月が替わり直ぐ引越しだ。

 

 

新しい引越し先はフィレンツェ中心街に近い、

 

以前より段違いで便のいいところ、学校にも徒歩で行ける。

 

 

 

前回と同じアパートの一室。

 

 

しかし前は外観の朽ち果てた安アパートだったが

 

今回は豪奢な石造りの大きな建物だ。

 

一見、アパートには見えない。

 

旧市街内にある、古い縦もんだけど立派なの。

 

 

みんな、

 

アパートなどのことを「パラッツォ」と呼んでおり、

 

英訳するとパレスか?

 

まあアパートというよりパレスは大げさだけど

 

オール石造りの美術館のような雰囲気ね。

 

 

「ここかあ~!!!」と見上げて首が背中にくっつくぐらい高い建物。

 

恐る恐るベルを鳴らすとインタフォンから若い女性の声が。

 

 

「Si,○●×□」

 

難聴なので聞こえないけど、Si(イエスのこと)って聞こえたから

 

戸を開けて入る。

 

 

エントランス共有スペースは天井が高く広く、

 

これまた豪華なつくり。

 

前回とは雲泥の差!

 

 

ココいいわ~

 

前の経験から、

 

建物や部屋など全く期待していない。

 

 

部屋のナンバーを確かめると戸を開けて待っててくれたのは

若い女性!

 

 

ワタクシより若い。

ニコッと笑い「どうぞ」と。

 

以前とは、真逆!(笑)

もちろん、マスクはしていきませんでしたよ。

 

 

ロングヘアーの似合う、しかしちょっと翳りがある、

前のおっかないおばさんとは大違い!

 

いかにも『フィオレンティーナ(フィレンツェ人)』だ!

 

家も人も、洗練されたアーバンテイスト、とでもいうか、

 

 

通された部屋はこれまた素敵なお部屋。

 

これも前とは広さもつくりも、雲泥の差だ!

 

 

目をぱちくり、口も半分開いてたかも。

 

 

学校斡旋の部屋というのは当たり外れがあるのだとその時わかったし

地獄に仏?

 

とにかく前とは違った明るく広く、大家さんも感じよく、

 

全部前よりいい!

 

 

間借りした部屋は

 

20畳近くはあったと思う、かなり広い部屋。

床はテラコッタ。

 

壁は漆喰の白壁で6月初めでもう暑くなっていたのでひんやりできもちいい!

 

部屋全体がとても品のいい感じ。

壁の絵やちょっとした置物もセンスが光っている。

 

イタリア人でもこうも違うのだなぁ

と前回のおばさんところの勉強部屋(応接間)が思い出された…

 

ワタクシ、ベッドをまず点検。

 

ま~簡易ベットのようであったが前のところとは比べ物にならないほどいい。

 

節約の為二人部屋仕様のところを借りたが、

 

その月は私以外に誰もいないという(ラッキー!)

 

部屋丸ごと占領してこれからは勉強できるぞ!と張り切った。

 

後にも先にも勉強できるぞ!

なんて殊勝な気持ちがこの時が初めてであり最後だ。

 

とにかく勉強できる環境にほっとした。

 

この家からは賄い付はやめ、自炊に切り替えた。

 

賄いつき、一人部屋の三分の一!

 

これで大いに節約できる。

 

大家さんの名はマリアといって私よりちょっと年下。

 

もの静かな女性で両親はすぐ側に住んでいるが、

 

自分だけで一人暮らししているとのこと。

 

 

修復師(絵画の)をしているが

それだけでは食べていけないのでヨガも教えているそうだ。

 

 

へ~~~ヨガねぇ。

 

「レイコは何をしにイタリアに来たの?」
と。

 

「イタリア料理を習いたい!働きたい!」とワタクシ、

 

つたないイタリア語で(このぐらいは言えた)こたえる。

 

「まあ~それはいいわね!」

「私も料理が好きよ」と 

 

とても感じいい大家さんではないか。

 

なにせ「前」が「前」だったので、

みんな「前」のようなのではと疑ってかかっていたワタクシ。

 

台所を案内してくれとても広々素敵なキッチン。

 

「冷蔵庫のこの段はレイコ(私)のスペースよ」と

 

冷蔵庫から物入れから全てシェアなので

自分のスペースを与えられ、なんだか自炊生活なんて久々なんで楽しみになってきた。

 

 

キッチンには広い大きな窓があり、テラスにすぐ出れるようになっている。

 

「ここに洗濯物も干してね、そしてほら」

 

 

たくさんの植木鉢があり、それを指差して

 

「このハーブ知ってる?バジーリコとローズマリーノとプレツェーモロよ」

「これ私が蒔いたのよ」

 

 

植木鉢は芽が出たばっかりのバジルやローズマリー、イタリアンパセリが植わっている。

 

バジルは少し伸びたもの、

そして大きくなってもう摘めるもの、と

 

段階に分けて育っているではないか。

 

へ~~~こうやって火をづらして種まくといつまでも使えて便利だな。

 

きっとマリアは本当に料理が好きなんだな、と想像した。

 

 

中庭のそのバジルやパセリは太陽の光を一杯にあびて青々としている。

 

これらの鉢植えのハーブを見てエネルギーが蘇ってくる感じがした。

 

 

今これを書きながら久々にマリアのことを思い出し

そしてあの家のことを思い出している。

 

 

あの家の独特なにおいまでが蘇ってくる。

 

 

次号に続く