暗から明へ

翌日、目を覚めると、

 

 

かいだことのないにおいに、

 

 

え?ここはどこ?

 

 

数秒自分がどこにいるか理解できなかった。

 

 

 

 

あ!そうだそうだ

 

べネヴェントに来ていたんだっけ。

 

 

ナポリから100kmちょっとの距離だが

 

 

交通アクセスもいまいちで

 

時間ばかりかかり、

 

 

 

 

近くてうんと遠いところだな、と

 

電車中で思ったのをぼんやりと思い出していた。

 

 

 

そう思ったのも一瞬。

 

ばかっと身体を起こして着替えて

 

 

 

部屋からでておじいちゃんたちのいる下に降りると

 

 

 

 

昨日のテーブルに

 

生成りのおばあちゃんが縫ったであろうと思われる

 

かわいい刺しゅう入りのクロスがかけられ、

 

 

 

エスプレッソモカとビスケット、

 

そしてフルーツがテーブルにセットしてあった。

 

 

 

イタリアの朝は

 

日本が塩系の朝食だとすると真逆の甘系の朝食。

 

 

甘いものを朝から、とんでもないと思っていたが

 

イタリアに住みはじめずいぶん経つが、

 

 

だんだん慣れてきた。

 

 

 

温かいミルクをたっぷりカップに注いで

 

エスプレッソと割って飲むのが

 

イタリア人の朝食の定番。

 

いわゆるカフェラッテだ。

 

 

 

それに固いビスケットを浸して食べるのだ。

 

 

ジュゼッペじいさんが微笑みながら

 

近づいてくるが

 

畑で一仕事して終わってきたという顔だ。

 

 

 

食べたら一緒にオリーブ畑に行きたい、とお願いすると

 

もちろんだよ、と微笑みながら答えてくれた。

 

 

 

さっと終わらせ二人で畑に行く。

 

 

 

30年前に移植した新しい畑と

 

それ以前からもともとある古木地帯と、

 

 

二手に分かれており、

 

 

遠い畑は車で行くほど離れており、畑は何カ所かに点在しているのだそうだ。

 

 

 

お屋敷のすぐの畑を見て、

 

この時はたしか春のはじまりだったか

 

 

オリーブの実はなっておらず枝がだら~りと、

 

 

風にそよそよと柳の葉のようにゆれている。

 

 

 

 

驚くことに、

 

 

ここの畑の土壌は、平たい手のひらサイズの石が地表を覆っており、

 

 

土はどこに?というぐらい石だらけの畑であるのにすぐ気づく。

 

 

土も粘度が乾いたような、

 

一見痩せたような土にしか見えない。

 

 

ジュゼッペじいさんは、

 

「こういう土壌なのでオリーブとブドウぐらいしか栽培できないんだ」

 

 

と言っていた。

 

野菜などの畑作は難しいということだそうだ。

 

 

 

その石ころだらけの土壌を見ながら、

 

 

厳しい土壌条件で限られたものだけしか栽培できない

 

 

しかもオリーブもブドウも

 

気候条件で不作の年もあるだろう。

 

 

厳しい農業条件の中で暮らす地域なのだなというのがわかった。

 

 

私が住む海沿いのナポリとは雲泥の差だ。

 

 

 

そうこうしているうちに

 

息子夫婦と孫が帰ってきて合流、

 

 

 

久々にジョバンナさんと再会し、

 

少しほっとした。

 

 

早口のイタリア語でジョバンナさんが

まくしたて、

 

 

わたしはジュゼッペじいさんと話したこと、聞いたことを

 

 

差し障りのない部分だけ復唱し、

 

「私が説明する必要ももないわね」と笑いながら

 

 

ランチの支度をみんなで一緒にしながら、

 

皆でワイワイ盛り上がった。

 

 

 

残念ながらその時のことは全く覚えていない(笑)

 

その昼に何を食べたかも覚えていない!

 

 

 

前日のジュゼッペじいちゃんとの話のインパクトが強すぎて

 

他は覚えていない。

 

 

 

あ、たぶん。

 

息子のサルバトーレとはほとんどしゃべらなかったような気がする。

 

今思うと、

 

 

30歳そこそこの私でしたが

 

子供のようにしか見えないわたしを、

 

 

本当にオリーブオイルを輸入なんかできるのか?

 

と内心思っていたのかもしれない。

 

 

20年以上付き合った今だからわかる

 

 

知的で理論派の息子サルバトーレ、

 

私と同じな右脳だけで生きるその妻ジョバンナさんとだけ

 

 

しゃべってたな確か(笑)

 

 

 

ジョバンナさんとの会話はとても自然で、

 

 

裏もない、オーガニック認証も取り、

 

大変な労働の成果としてできる良質の自分たちのオイルを

 

価値のわかる人に

 

自分のオイルを渡したい、という強い信念は

 

 

私にも十分伝わり、彼女の求めることも

 

ごもっともと、昨夜のおじいちゃんとの話も聞き

 

納得できた。

 

 

 

オイルの云々、価格の云々、輸入の云々、

 

この第一回目の訪問時は全く話さなかった!

 

 

しかし、

 

 

私はこの人たちのオイルなら扱える!

 

とオイルの味の良さは最低限の条件として、

 

 

この家族とともに仕事をしたい、

 

オリーブオイルのことを日本人に伝えたい、

 

 

と心から思った。

 

 

 

次号に続く