プーリアの終焉

民宿の周りもすっかり秋の深まったある日。

 

シニョーラは私にきのこを取りに行こうという。

二人で5分もかからない裏庭にいくと

 

 

茶色の見たことのないキノコがわっさわっさと生えていた。

 

日本のなめこの二回り大きく丈の長い。

見るからにおいしそうなキノコだった。

 

 

夏ふんだんにあったトマトやズッキーニはすっかり終わり

食材も秋深しモードのプーリア。

 

 

そのとったキノコは二人で丁寧に処理をして

パスタソースに変身。

 

 

天然のキノコ、それはそれは濃厚な味で素晴らしかった!

と。。。。

 

 

キノコを食べながら

民宿のお客さんもめっきり減りワタクシもなんとなくいたたまれない雰囲気に。

 

 

そろそろ潮時か。。。。

 

なんとなしにそんな風に思うようになる。

 

 

ワタクシは滞在中に地元の女子大生と知りあったのだが、

 

その彼女はホテルレストランの大学に通っており

いずれ実習で日本のホテルかレストランで働くことを選択する予定なので

 

日本語が勉強したい、と

ワタクシはなんとある時からその彼女に日本語を教え始めていた。

 

 

日本語を教えるって、

国語がきちんと出来てないとうまく教えられない、ってことに

この時しみじみ気づいた。

 

 

ワタクシがイタリア語で教えるんだから!

イタリア語もろくにできないのに、

 

まあ、なんとか適当に教えていたのですがね。

 

 

余談ですが

国語は大事よ、と声を大にして今言いたい!

 

 

その彼女、名前は忘れてしまった、

眼鏡かけ細面のいかにも賢そうな女の子だった。

 

私はある日の日本語レッスンで彼女に相談をもちかけた。

 

 

「そろそろ、この民宿を出たいんだけど」

「次もまたオリーブ農家、できればオーガニックファームで、、、、

そして料理のおいしいところ!」

 

「よくわからないけど、イタリア料理って言ったらナポリでしょ」

 

「ナポリに行ってみたい!」

 

と打ち明けた。

 

 

彼女は、わかった!私に任せて。

 

 

割と気軽に、

ワタクシの次の行き先を一緒に探してくれることになった。

 

 

彼女は、

 

「レイコ、おいしい料理を学ぶのであるならナポリでじゃないよ」

 

「イタリア料理って言ったらシチリアよ~~~」

 

と彼女は

 

ワタクシが全く想定していない

遥か彼方の離れ島・シチリア行きを勧めるのであった。

 

「シチリア島・・・・」

 

よくわからないけど、

 

なんかよさそう!

 

 

ほんとにその時はシチリアの料理がおいしいなど全く知らず、

訳がわからないけど、なんだかよさそう!のノリで

 

 

その民宿にあったガイドブックのシチリアの章を片っ端から

オーガニック・オリーブ農家をチェック。

 

 

次の日本語レッスン(まったくおこがましいが)の時に

彼女にそれを見せた。

 

 

その時はインターネットも、携帯電話もなく、

 

日本語レッスンの場であった

私が滞在している農家民宿のサロンから電話するわけにもいかないので

 

 

ワタクシ達はこそこそと場末のバールに行き、

公衆電話からリストアップした農家民宿に片っ端から電話をし

彼女が掛け合ってくれた。

 

「日本人の女性がオリーブオイルについてとシチリア家庭料理を学びたがっているの」

「働かせてもらませんか」

 

だいたいこんなフレーズだったと思う。

 

 

案の定、まったく相手にされない。

結構な数の民宿に電話したがダメだ。

 

彼女は、とてもまっすぐな目で、

 

「レイコ、あきらめるな。今日はだめだったけど

またリストアップしてまたかけてみよう」

 

 

って。

 

 

今考えると、彼女のお蔭で今の道が作られているかもしれない。

あそこであきらめていたら、

 

また違った展開になっていたかも、と考えると恐ろしい。

 

 

彼女の眼鏡越しのキッとしたまなざしは、

今でも脳裏に焼き付いている。

 

 

ワタクシは、がっかりしながらも。

全く行き先不透明な近未来を想像できず不安ながらも

 

彼女の励ましとあの目に救われたのである。

 

 

そして次の日本語レッスンの後、また彼女と例のバールに移動し

ワタクシが新たにリストアップした

民宿を手あたり次第電話した。

 

 

そしてそしてついに!

 

一軒の民宿がいいですよ、と受け入れてくれたのであった。

 

 

 

電話で話しながら、彼女は私にウインクしOKだと合図。

ワタクシはほっとしながらもすぐに

 

いったいどこなんだろう?と。

 

 

彼女は、

「レイコ、シチリアの果ての果てシャッカよ!」と。

 

シャッカ???

 

果ての果てえ!!!

 

 

聞いたこともない街の名前に途方に暮れるとともに

 

新たな場所に移動できる喜びで

 

ワタクシは初めて働けることになった今の民宿が決まった時と

同じぐらい興奮していた。

 

 

次号に続く