オーダーが入り始めるとともに、
ほどなくして
レイコ、
まきまき一丁!
てな感じで
ストゥツキーニ2つ、
あるいは4つ、
とテーブルの客数分のオーダーが入りはじめ、
私は巻き巻きのラップを外し提供の支度に掛かる。
うろこ状のズッキーニは
薄緑色のアマタノオロチ状で何とも言えない姿だ。
それを慎重に半分にカットし、
端を落とし、
白い皿に盛る。
仕上げは
ひと糸のオリーブオイルを回しがけと、
生ハーブをちょこっと載せて完成。
注意深く皿をチェックしてから
所定のところに持っていく。
という、
初めての夜にそんな大それた仕事を
いきなりさせられる、
のがいよいよ始まった。
何個も何個も、
一連の作業を繰り返し、皿に盛り、
所定のところに置く前に、
シェフのチェックが入る。
皿一枚一枚をしっかり見るのだ。
「何やってんだ―――」
「よく見てみろーーー!」
と少し慣れてきたころにダメ出しが入る。
皿の上をよく見ても、
どこが不適切か?が分からない。
え~~
「なんでですか!?」
と聞くと、
シェフ、
「よく見てみろ!」
「こんなところに水のしぶきがあるじゃないか!」
わたし、「え!?え!?どこどこ!?」
そんなものは見えないのであるが、
よーく見たらあった。
水のしぶきがほんのちょびっとだけ!
それがいけないんだそうで、
拭いてない皿に料理を盛った風に見えなくもない。
き、厳しすぎる!
震えあがりながら
次は盛り付ける前の皿、盛り付けた後の皿全体の点検を念入りにする。
必死で巻き巻きの盛り付けをし
今夜のお客さま全員の巻き巻き料理の提供を終えた時には、
・・・・・・・
記憶にない。
・・・・・・・
全くない。
・・・・・・・
みじんもない!!!
たぶん、緊張がマックス、
シェフに怒鳴られた痛手もあり、
達成感などを感じることもできなかったのだろう。
記憶が見事に飛んでいる。
ここからは記憶がある。。。。
マルコとニックも
前菜提供は終わり、後片付けも終了したのに
なにか料理しているようだ。
ガス口まで近づくと大鍋でぐつぐつと何かを煮ている。
何やってんだろう?
マルコは今日一日のお客さんへの料理提供を終え
リラックスモード。
明日のスタッフ用賄でも仕込んでるのかな?
と鍋を除くと、
ぎょえ~~~
牛の赤身を一口大にカットしたものがたっぷりと、
たっぷりの野菜、
そこにパスタまで入ってる!!!!
なにこれ!?
明日の、、、、まさか私たちの賄じゃないよね?
と聞くと、
ワンコのごはんだよ、とマルコ。
このレストランにはそういえばでっかいワンコが2頭いたな。
シェパードと
もう一頭も大型犬、毛足の長い白い大きなやつ。
あの2頭の餌というではないか!!!
え~~~~
こんな豪華な食材を使うわけ?
マルコは言う。
「前菜は一番初めに仕事が終わるから
全部終わったら前菜チームはこの家のワンコごはんをつくるの
が最後の仕事なんだよ」
ともくもくと作業をしている。
あっけにとられていると、
レイコ、見てごらん。
と黒い瓶を持ち上げ、
鍋にたっぷりと回し入れた。
その液体は黄金色に輝くオリーブオイルだ。
「もしかしてそれオリーブオイル?」
レストランで使っているのと同じ容器に入ったものだ。
「そうだよ」とマルコが言う。
「毛のつやをよくするために入れるんだよ」
人と同じものを食べるのかこの家のワンコたち。
人と動物の関係性の概念が変わった瞬間でもあった。
そんなこんなで
初日の長い夜はこうして幕を閉じていった。
次号に続く