コックコートのひろしくん

武者震いの時って、見逃しちゃあいけない。

 

 

①ざわざわっとか、

②胸騒ぎ(ってあまりないが)

 

そして

③違和感。

 

 

①②③全部ネガティブな感覚だがこれが来た時は

 

やめておいた方がいい。

 

 

 

しかし武者震いは違う。

 

前へ進め!の合図と、

 

 

私は今だから思う。

 

 

 

雑誌に出ていた

ミシュラン三ツ星、南イタリアでは初めて獲得リストランテ!

 

 

という記事は

私の目からず~~~んと入っていき、

 

身体に染み入り、

 

ココしかない!

 

 

と何の根拠もないのに働く!

 

 

と勝手に思い込み、

 

そして武者震い。

 

 

わなわなわな~~~

と心臓がバクバクしたのだ。

 

 

ここに行く!ここしかない!

 

 

 

と住所を調べたらよく知った電車に乗って、

さらにバスで1時間近くかかる。

 

 

とにかく遠そうだ。

 

 

実際、

ナポリ中央駅から相当な時間がかかった。

 

 

ミシュラン三ツ星の定義そのものを私は実感した。

 

ただし、

食べるために向かったわけでないけどね。

 

 

 

参考までにミシュランの星付きレストランの定義はこうだ。

 

一つ星:そのカテゴリーで特に美味しい料理

二つ星:遠回りしてでも訪れる価値がある素晴らしい料理

三つ星:そのために旅行する価値がある卓越した料理

 

 

だ。

 

さあ、時間がない。

さっさと直談判するために数日後に意を決し出発した。

 

もちろんアポなどは取らない。

 

 

電車を降り、

 

数十分かけて山を登るように走るバスを降りたところが

その場所。

 

 

小さな集落に商店街がちょびっと。

あとは住宅街が固まっている街ではあるが、

 

 

そうとう辺鄙な場所だ。

 

 

本当にここにそのレストランはあるのか?

と不安になった。

 

 

バス停からそれらしき方向に歩いていくと

 

 

バールのテラス席でコックコートを来た一人の日本人らしき男子が

新聞を読みながらお茶をしている。

 

 

近づいてみる。

 

目が合うと向こうからほほ笑んでくれた。

 

 

おーーーーー

(内心)やはりここでいいんだ。

 

あのレストランで働いているコックさんに違いない。

 

 

目が合って

「日本人?」

 

と聞くと、

 

「そうですよ」と日本語で返ってきた。

 

 

 

ちょっとぷっくりでやさしい目をした男子に

 

意を決して事情を話す。

 

 

「あの、アルフォンソで働いているんですよね?」

 

 

「わたし、コックじゃないんですが食のことに携わるものですが、

単刀直入、レストランで働けるかな?」

 

 

 

その彼はひろしくんという。

 

 

ひろしくん「いいですよ、ボクが頼んであげる」

 

 

なんて、めっちゃ親切に言ってくれるじゃあありませんか!!!

 

 

「えーーーーーー」

「ほんとにーーーーーー」

「すごーーーく嬉しい」

「わたしコックじゃないよ、これこれこういうことを日本でしてました」

「イタリアではこれまで農家民宿で料理手伝ってました」

「お願い!」

 

 

もしかして本当にレストランに入れそう?

働けるかも!?

 

キツネにつままれたようにその場で放心した。

 

 

ひろしくん「今休憩でシェフがレストランに戻るころ

そうだな~5時ぐらいになったらもう一度来てみて」

 

 

と、

ひろしくんはすぐそばのレストランに戻っていった。

 

 

 

びっくり~~~

どうしよう~~~

本当にレストランに入れるなんて。。。。

 

いや、まてよ、、、、、

いくらなんでもそんな簡単に。。。。。

 

そんなわけないか、いや、ひろしくんは助けてくれる!

 

 

ひろしくんにそんな権限あるのか?

年のころは30歳手前ぐらいの未だ若造だ。

 

私より年下は間違いない。

 

こうやって何度も自問自答した。

 

 

5時になるまでどうやって過ごしたか?

全く今となっては覚えていないが

 

 

その街にマッチした薄ピンクと白の壁が美しい

5時ちょっと前に

 

リストランテ・ドンアルフォンソの門を恐る恐るくぐった。

 

 

そして、

裏側へ回る厨房の裏口があり、

 

大勢のコックさんがせわしなく働いている。

 

 

ひろしくんを探すと、いたいた!

 

 

「こっちこっち」と手招きしている。

 

ひろしくん「シェフに話しておいたから中庭で待ってて」

 

 

と言う。

 

中庭!シェフ!

 

きゃ~~~どうしようどうしよう。

 

 

中庭を入っていくと、

 

お客さんが散歩できる広い庭に

イスとテーブルが置いてある。

 

 

そこに座ってはみたが

 

緊張でお尻が浮いているようだった。

 

 

首輪をつけたシェパードが広い庭を駆け回っていたが、

怖いのはこれから来るシェフだ。

 

 

どんな人だろう。

 

ここで働けるかもしれない!

うれしい!

 

やった!

 

 

いや、そんなうまくいくのであろうか?

いろいろな想いが頭の中をぐるぐる。

 

あの雑誌のレストランオーナーがこれから来る!

 

 

と思っていたら、

向こうから背の低いコックコートを来た小男が歩いてくる。

 

 

「あなたがレイコ?チャオ・はじめまして」

 

とこの人イタリア人?

 

 

と思えるような流暢だが外国人の話すイタリア語だ。

 

「ぼくはルイス、ここのシェフをしてるよ」

 

 

と言うではないか!

 

 

あれ!?あの雑誌の写真の人じゃない。

イタリア人じゃない!

 

なに~~~~~っ???

 

 

頭の中が更にぐるぐる、うずまきが渦巻くのであった。

 

 

 

次号に続く