長い一日

滞在しはじめて数日後家族だけでの昼ごはんでのことだった。

シニョーラもドメニコモ、
アルバニア人の使用人も、皆せわしなく働いており、殺気立っている。

なぜ?
変だ!

何がなんだかわからず、皆があ~だこ~だと話す内容もイマイチ。
イタリア語もまだまだの頃であった。

皆が眉間にしわを寄せながら話す中、

次男ドメニコがぱっと表情を変えて笑顔で私に

「レイコ、明日はブドウの収穫だよ!君ももちろん手伝ってくれるだろう!?」

「え?」
「ブドウって」

私、この農園ではブドウは作ってないじゃないの?と一瞬顔がハテナマークになった。

「ブドウって、まさかワインの!?」と言ってみると

ドメニコ「そうだよ」と、

『その他に何の為のブドウだっていうんだ』っていうような顔で答える。

明日は一年に一度の大仕事、ワイン用のブドウを収穫する日だった。

もちろん、この農園ではブドウは作っていないのだが
どうもここからかなり遠くの他の農家さんに頼んで作ってもらっているとのこと。

それらを自分たちで収穫しなければならないんだそうだ。

そりゃ楽しそう!ブドウの収穫が見れるなんて!
とってもラッキーー。

かなり遠いので明日は早起きだ!
とドメニコがウインク。

しかしそれにしても家族皆、使用人達が殺気立っている。
いったいなんでだろう、と思いながらも

その日は宿泊客もいなかったため、夜も早めに床に就いた。

そうそう、この民宿の最上階にある客間に寝れたのは初日のみ。
二日目からはなんと、

シニョーラ「レイコ、今日からは私と一緒の寝室よ」と。

イタリア人には珍しい、ごちゃごちゃと片づけてないシニョーラの部屋に寝ることになる。

ほぼ、彼女と並んで寝る羽目になるのだが、

よく眠れるのか?と心配したが、毎日目まぐるしくやることがあり、
もうベットに横になる瞬間にバタンキュー状態。

シニョーラの寝ている姿も見たことがないようなほど、
彼女は遅くまで、そして誰よりも早く起きて仕事をしているのだった。

イタリア人が怠け者、仕事をしない人、と思っていた私だったが、
この家の人は当てはまらないと思った。

あくる日、隣のベットのシニョーラにたたき起こされ
まだ真っ暗中、長靴を渡され、さらに軍手とバケツを持って車へ。

2時間近くも離れたイタリアの土踏まず部分“ターラント”という街に到着。

いや~
かなり遠くまで来たな~
と思いながらも

陽が昇り、果てしなく続くブドウ畑をみて、驚く。

だって、どこまでも果てしなく畑が続くんだもん。

普段はサラリーマンをしている長男までも会社をやすんで駆り出されている。
この長男というのは会計士だとかで、とてもすましたキザ男。

ブドウを摘んで持ち帰る用の大きなトラックを運転させられていた。
この長男、腕組みをして大股を開き、こちらをみているだけ。

収穫は全く手伝おうとしない!

いやはや、家族の大仕事の中、
こういうことができるもんかと理解できなかった。

『自分は絶対農作業などいたしません』と顔に書いてある。

さて、私にとっての人生で初めてのブドウの収穫。

ブドウ畑というのは2種類あり、木の高い棚状のタイプと
フランスのワイン畑に見るように低い棚なしタイプとある。

ここのは低い棚なしタイプで腰をかがめながら収穫しなければならない。

ブドウの木を見ると真っ黒に色づいた小粒の実のついたかわいらしい房がついている。
食用より小ぶりで、粒がえらい小さい。

一つの木に、2つか、3つしか、ついていない。
これを軍手をして、はさみでひと房ひと房、カットして腰につけた籠にブドウを入れていく。

わたし、10分もするともう腰が痛い。

さらに、籠が一杯になると腰に重みがずっしりと、
腰の籠が一杯になると、ところどころに置いてあるプラスチックの入れ物に入れ替えなければならない。

そしてそのプラスチックの箱をトラックまで運ぶのはその畑の持ち主の農家さん。

重いのを軽々肩に担いで運ぶのだ。

最初は、ブドウ畑の葉の緑と実の黒色がそれはそれは美しく見とれたが、
一房一房の手摘み作業、籠の重み、30分もすると地獄の作業に変わる。

他のみなは軽々とやっているように見える。

こりゃ地獄だ~~いつまで続くんだ!
畑のどの部分まで摘まにゃならんのだ!

想像以上の重労働だ。

ブドウの品種はなんだったんだろう。
辛くて聞きもしなかったが真っ黒に熟したブドウ、

つまんでみるとその甘いことといったらない。
食用のブドウで感じる甘さの10倍ぐらいに感じる。

高級ワインは1本から一房、なんていうけど、
このブドウ畑がそういうものには見えないけど、それが普通なのか?
驚くほど木になっているブドウの数が少ない。

赤ワイン用のブドウだが手でつぶすと真っ黒いブドウ液がじゅ~っと。
黒ブドウといっても過言ではない(後から知ったがこの地方の赤ワインは黒ブドウ酒と呼ぶ)

やれやれ、やっと終わりだ、となったとき、
私はそこにぶったおれる寸前!やっと~~やっと~~~終了だ!

もう目もうつろに畑に大の字になっていると

ドメニコが両手に大きな白い包みを持ってこちらに近づいてくる。

包みを開けると、そこには分厚いパンの平べったいものの上に
プチトマトがところどころ乗っていてピザのようなものだった。

ドメニコが「レイコ、食べなよ、フォカッチャだよ」と。

「フォカッチャ!」これがフォカッチャか~
ぞうりのような形のパン。

見た瞬間、猛烈に腹が減り、
ぱくつく私。

そのフォカッチャのおいしいことおいしいこと。
後にも先にもあれ以上においしいフォカッチャはない。

って労働の後だから、余計そう感じたのかもしれない。
プーリアのフォカッチャは最高だ!

ここプーリアはどこよりも雨が少なく、日照が長く強いので
糖度の高いブドウが出来るそうだ。

その糖度の高いワイン目指して遠くはフランスからも買い付けに来るとのこと、

私たちが道端でフォカッチャをぱくついているときも、
何台ものトラックが通る、それらはみなフランスナンバーだ。

ドメニコが、ここのブドウ果汁を持っていき、フランス産のワインに混ぜるんだよ。
なんて言う。

私、目が点になる。

フランスは場所により糖度の高いワインを作るのが難しいらしく、甘味(アルコール度を上げるため)の補足に
イタリアの南のワインを足してつくることが多いのだそうだ。

フォカッチャをぱくつきながらそんな話を聞きながら、

このとった大量のブドウはどうするんだろう、とうっすら考えていると

「急いで帰って仕込みだ!」と

ドメニコが言うではないか。

う、うそ~~~
もう、働けませんよ。
限界!

しかし

ブドウは収穫してからが勝負、すぐにワインの仕込みが始まるのだった。
帰ってからの昼寝の当てが外れる。