ボロ電車でやっと着いたアルベロベッロ。
南イタリアのかかとにあるプーリア州の中ほどの街だ。
この街は南イタリアでも有数の観光地として世界中から人がやってくる。
とんがり帽子のかわら屋根が特徴のかわいらしい家・トゥルロが
群集しているところである。
まるでおとぎの国のような町並みだ。
数年前に初めて観光で訪れ、
そこにただ一人の日本人女性がいる事を知る。
ヨウコさんというその女性に、私は手紙を書いてアポをとっているのだ。
さっそく待ち合わせのレストランに向かう。
小さな街なのですぐその場所はわかった。
彼女は入り口に背を向け赤ん坊を抱えて待っていた。
あ!子供さんができたんだ!
初めて訪れたときは、地元の男性と結婚したばかりで、
初々しいヨウコさんだったように思う。
お土産屋さんを経営しており、そのついでにガイドサービスを
日本人観光客向けにしている。
私も初めての時にツアーガイドをしてもらい、
彼女執筆のガイドブックを購入していたのが
今回またここに来れるきっかけを作ってくれたのだ。
早速、挨拶をすると彼女は早口で自分の言いたいことをまくしたてる。
ご主人に頼んでレストランを探したがやはり外国人、
しかも女性を使ってくれるところはないと!
予想はしていたが、
がっくり。
がっくりしてる間もなく彼女はまたまくしたてる。
レストランなんかに行かないで私の手伝いしない!?と。
抱いている子のベビーシッターと家の事をして欲しいと言うのだ。
それから自分がいかに忙しいかを延々まくしたてる。
連日何十台もの日本人観光バスがこの町に到着し、
そのガイドを全部やらなければならないと。
料理なら自分が教える、
旦那さんの家族、とくに姑は料理が上手なので彼女も教えてくれるともいう。
なかなか魅力的なことも言ってくれたが、
しかし~~~
私はもう少し食い下がった。
この辺にある農家民宿をテレビで見たことがあるが
ああいうところで住み込みは出来ないのか?
レストランで働く!というのが私の希望であったが、
万が一の場合、最悪の場合、民宿での住み込みも考えていた。
以前テレビのドキュメンタリー番組で、
この近くのオリーブ農家についてを紹介しており
とても興味深く見たのを思い出したのだ。
料理上手なおばさんがいたのが印象的だった。
その話をすると、
その番組をコーディネート&通訳をしたのは自分だと
ヨウコさんが言うではないか!
それじゃ、その民宿の場所を教えてくれとわたし。
しかし、その民宿の情報もヨウコさんはなかなか教えたがらない。
なんとしてでもベビーシッターをわたしに頼みたいモード全開だった。
どうにかこうにか聞き出し、
その日はもう民宿を訪れるには迷惑な時間なので
明日の朝そこに向かうことに決め
ヨウコさんに安宿をとってもらいアルベロベッロに一泊することにした。
夜のアルベロベッロは夏祭りで大賑わいだったが、
わたしはなんとも落ち着かず眠れない夜を過ごした。
翌朝はそこから2駅手前の駅に向かう。
アルベロベッロから近い!
民宿にはわざとアポイントをとらずいきなり行ってみることにする。
電話ではうまく話す自信がないのと、
断られたらそれまでだからだ。
駅に着いて公衆電話からおそるおそる電話をかける。
ドキドキしながらコール音を聞いていると意外にすぐに電話に出てくれた。
若い男性の声。
わたしは「日本人です。今からそちらの民宿に行きたいが?」
とだけ言うと
すぐ迎えにいくから待ってて、と答えが返ってくるではないか。
電話を切り更にドキドキ。
男性を駅のホームで待つことにする。
南イタリアのギラギラの太陽は朝から容赦なく、
私はどのぐらい待つんだろうと思いながらも、
民宿で働けるか?
何とも言えない気持ちで待っていたのを
今でもはっきりと覚えている。
次号に続く