オリーブオイル屋への道

ナポリ近郊の農家民宿での生活が始まった。

ナポリ料理とはどんなものか?
全く想像できないまま滞在先でだんだんと知ることとなる。

海に近く魚介類が豊富、そしてナポリ界隈はトマト生産量が多いので
トマト中心に味付けをする料理。

あっさり、というイメージを勝手に妄想していたが少し違っていた。

今だから言えるのだが、その家庭家庭によって
オリーブオイルの使い方がまちまちだ。

驚くほどの量のオリーブオイルを料理に使うイタリア(地中海沿岸全ての地域も)だが
その料理の仕方も微妙に家庭によって違う。

この農家民宿はオリーブオイルを高温に熱して使っており
日本でも炒め物などする時にがんがんに油を熱してから材料をいためたりすることは普通だが

その時はエレナの料理の仕方に違和感があった。

その前のプーリア州のニーナさん、シチリアのアンジェラは
油を高温にすることはまずなかったから。

そのせいかこの民宿の料理はやや油っぽく仕上がっていた。

また豚を飼っている農家さんも多く、
豚は頭から尻尾から捨てるところがない、と言うが
ラードを料理に多用するのも特徴。

全部ではないが、
特にドルチェ・スイーツにラードを使うのには驚いた。
自ずと料理、デザートはどっしりと胃に重いものになる。

豚肉の扱いもこの民宿で見せてもらったが
豚を余すことなく使い切る!

ラードってすごくきれいで美しい。
ラードを絞り切ったカスさえも食べるんだから。

捨てるところがない、とはよくいったものだ。
貴重な食料として、豚さんの命を決して無駄にすることなく食べる文化は
素晴らしいと思った。

そして豚肉の本当の美味しさをここで知ったわたくし。
どんぐりと植物性だけをエサで育った豚肉、って本当においしい!

話を戻すと、

この辺りナポリ近郊は、

トマトの生産が多く、

生はもちろん、
ピューレー状の『パッサータ』や
日本でもよく使うホールトマトの水煮を多用し

なんにでも何らかのトマトが入る。
その辺りが、他の地区と大きく違う。

オリーブオイルとトマトとの相性の良さはここで納得。
トマトが格段にオリーブオイルと混ざることにより美味しくなるんだなと舌で確認できた。

プラスすると、にんにくが入ることによって、それが更においしくなる!
トマト、オリーブ、にんにくの三位一体の味はここでわたくし開眼しました。

トマトにはオリーブオイル無しではもったいない!
トマトの美味しさを引き出すには生も加熱もオリーブオイルだ!

また

ブラックオリーブの漬物や
塩漬けのケッパーも料理に多用する。

これが料理のアクセントとなり

乳酸発酵の旨みが
オリーブやケッパーは使わないが、
漬物文化の日本人の私にはたまらないおいしさだ。

濃い旨みを持つトマトとオリーブオイルのハーモニー、
旨みの固まり塩漬けオリーブやケッパーの存在、

特にオリーブの実はそのものを食べるものかと思っていたが
調味料として使い勝手のバリエーションの多さは

このナポリで知った。

今までいたところにはない独特の食文化があることを知り、州の違いにより、
はっきりくっきりの違う食文化がある、間違いない!と確信。

ちなみにイタリアは150年ほど前に20の国が統一したというだけあり、
それどれの(国)州の郷土料理が今も引き継がれてるそうです。

料理を見ながら食べながら、いろいろな新しい発見が毎日。
ここは人も多く、人の出入りも多く、
毎日人とのコミュニケーションで本当に楽しい。

この農家民宿はパーティ・宴会にも対応しており
週末はものすごく忙しかった。
100名以上の宴会にもしょっちゅうだった。

私も料理の下ごしらえや皿洗い、盛り付けなどなんでもやらせてもらった。

楽しく時が過ぎていったのだが
奥さんのアンジェラがある日

「オリーブオイルがもうなくなりそうなのよ」

家族と従業員みんなでランチをしている時だった。

アンジェラは「どうしようかしら~困ったわ~」
自家製のオリーブオイルが使い切ってしまったそうだ。

隣近所もみんなオリーブの収穫直前だから売ってくれるところがないんだそうだ。

フランコは
「じゃしょうがないスーパーマーケットで買うしかないだろう」

アンジェラは仕方ないという顔で
「しょうがない買って来るわ」と言った。

翌日、大きなスーパーマーケットにアンジェラに同行させてもらった。
スーパーマケットで買い物をするのは初めてだった。

行ったのはCOOP。コープはイタリアでもコープでつまり生活協同組合。
比較的質のいいものが揃っている大型スーパーマーケット。

大きなカートを押しながらアンジェラは奥へ奥へと。

そしてたどり着いたら驚くことその種類の多さ!
棚5~6段に何メートルと、
色とりどり、大小いろいろオリーブオイルが売っている。

こんなにも種類があるのか!
選択肢がありすぎて選ぶのも大変だな~と

なになに・・・と棚をよく見ると

いろんなのがあった。

上の棚には割りと高めの高級品、
銀の薄紙に包まれたものやオーガニックのものなど。

棚の下ほど手ごろな値段で大きいサイズがどっしりと置いてある。

値段もずいぶん差がある。

アンジェラが何を選ぶのか興味津々だったが
透明なビンに入った角瓶の割と普通っぽいもの、

日本にも同じような瓶とラベルのオリーブオイルがあったような気がするな~

値段も中位のお手ごろなものを2ダース購入した。

随分買うな~
と思いながらも、
週末のパーティにも対応できるように大量に買ったのだろう。

帰宅し早速そのオリーブオイルで料理し従業員と共にいつものように皆でランチを食べた。

見た目はいつもの料理だったが
出来上がった料理が・・・・・

料理担当のエレナは確かにいつものように料理をしていた。

結構高温でオイルとブラックオリーブとケッパーを炒め、
トマトのパッサータ(ピュレ)を入れて煮込んだ
パスタソース・プッタネスカを作ったのであるが

スパゲッティとあわせ皿に盛ったまではいつも通り。

食べると主人のフランコが
「なんだこの油は!」とカンカンに怒るじゃないの。

私も油っこくて食べられない。
べとべと。

フランコはアンジェラになにか早口でまくし立てていたのだが
きっと安物買ってきたんだろう、
ってオリーブオイルがまずいと言っているように聞こえた。

私はこの時、

『なんで農家さんがつくる自家製オリーブはあんなにおいしいのになんでこんなまずいものが存在するのか?』
『日本にあるのはまさにこの手のオリーブオイル』
『自分もイタリアに来る前にオリーブオイルといえばくさい、油っぽいと思っていた』
『一本使い切ったことは皆無』

ということを思い出した。

プーリアのニーナさんちのも、
シチリアのエンツォのも
ここフランコの自家製オイルもおいしい。

スーパーのオリーブオイルまずい!
なぜこのようなギャップが起こってしまうのか?

この一件は料理だけではなく?
『オリーブオイルって一体何?』
と頭に電球が灯った瞬間だった。

今振り返ると、よくわかるが
意識がちょっと変わると人生も変わってしまうのだ。

この瞬間から私のオリーブオイル屋への道が見えてくるようになってきたのかもしれない。
いや、まだまだこの一見だけじゃ油屋にはなっていない。

またその後事件は起こったのです。

次号に続く