ダイアモンドの原石

バルバラが用事で出かけていき
私と母のアントネッラが二人っきりになる。

大柄の彼女は女性っぽくないのが変な感じ。
バルバラが娘とは到底思えない体格で
この家のいかにも‘主人‘という威厳に満ちた女性だ。

彼女はミラノ時代から幼稚園の先生をしているそうで
彼女の風貌からは想像できない職業に、聞いた時は笑ってしまった。

午前中は幼稚園に行っていたそうで
帰って来て昼ご飯

(またこれも清貧メニューであった 青菜のゆでたものにオリーブオイルをかけて食べる。
そしてパン、その他なにも出てこなかった気がする、話しに夢中であまり良く覚えてないのだが)

を食べながら

私になんでまたオリーブオイル売りになったかを突然聞いてきた。

‘それを私に聞く?と念を押してから
長いココまでのストーリを私は話し始めた。

日本で農家の嫁をしていた事、
それが破綻した事、
その足でイタリアに料理修行にきたこと、
そこでオリーブオイルの魅力にはまった事、
さらにオリーブオイルの現状を知った事、
日本にいいオリーブオイルがなかった→自分でそれをやる決意をする

と私はあけすけに全てを話す。

私のリコンに彼女は微笑みながら反応をし、
ウンウンと聞き入っていた。

反面、私はなんでまたミラノから移り住んできたのか?を
ぶしつけながら聞いた。

彼女は一呼吸おいて、
しかし微笑みながらこう言った。

アントネッラ

‘Grande sofferenza` があったのよ。と。

グランデソォフェレンツァとは。大きな苦悩と直訳する。

私は

‘一体どんな苦悩?聞いてもいい?‘と。

アントネッラは相変わらず微笑んでいる、
その微笑からはその苦悩を越えてきたんだなというのがわかる。

12年前ミラノに住んでいた。
ある日の朝、夫が出勤した後電話があったそうだ。
その電話を最後に帰らぬ人になった。
事故でそのまま逝ってしまったのだ。

‘二時間前に電話で話したのが最後になった‘

と一気に話すとアントネッラはこちらをみて
グランドソォフェレンツァよ。とまた。

私は返す言葉がなく
しばし無言でいる。

お互い、いろいろあったのね。

と彼女は穏やかに言うと、またやさしく微笑む。

大女でごっつい彼女だがその微笑みは天使のようだ。

ふわ~っとやさしい笑顔なのだ。