フェデリーコさんに教えてもらった製麺所にいざ!
イタリア料理修行中に滞在したプーリア州は
イタリア半島の東側にあるアドリア海側にある農家民宿だった。
どこからどういう風にアブルッツォに行ったかは
覚えてないが、
数年ぶりにイタリア半島東側に行くことが決まり、
興奮したのを覚えている。
アブルッツォ州、特に目立った観光名所はなく、
一度だけ冬山にスキーをしに行ったのみ。
それ以来だ。
#この製麺所に行く前の、
フェデリーコさんと出会ったときに時間軸を巻き戻し
フェデリーコさんに会ったのは
ボローニャのオーガニックフェアだった。
そこでオーガニックのフェアー見学も兼ね、
フェデリーコさんに会えるようオルチョのジョバンナさんが段取りしてくれたのだが、
その場ですぐに製麺所社長に電話してくれたフェデリーコさん。
社長マリオさんの携帯に何度か電話するが、
出てくれない。
たぶん製麺所で作業中なのだろうと、
あとで話をつけておくからアブルッツォに君、行きなさい!と
一旦そこで別れたフェデリーコさんだったが、
小一時間後、
フェアーでジョバンナさんたちと談笑していると、
そこにまた真っ赤な上下スーツのフェデリーコさんが現れた。
横に見知らぬ男性が立っている。
あら?なんで?と思ったと同時にフェデリーコさんが、
両手を広げ、
「レイコ~~~」
「君ってなんてラッキーなんだ~~~」と言う。
わたし、「は」???
と同時に、
電話に出なかったのは車運転中で、
このフェアーに向かっていたからだったんだよと!言うではないか。
えーーーーー
なんですってーーーー
例の製麺所の社長?その横のオトコが?
製麺所の社長は、年のころは40代半ばか、
やせ型のすっと背の高い製麺所社長とは想像できない
線の細いオトコだった。
フェデリーコさんも興奮しているが、
いきなり目的のものが目の前に突如現れ
わたしもどぎまぎしたが、
いきなり確信をついた質問をしてみた。
・おたくの乾燥機の温度は?
・成分が変化する温度帯って何℃?
・全粒粉パスタがおいしくないわけって何?
などなど、いろいろ疑問に思っていたこと
あれこれ質問したが、
一般のイタリア男風ではない、えらいまじめな受け答えだったのが
印象的だった。
実際に製麺機を見て説明をした方がいいから
アブルッツォにおこしください、と言う。
製麺所社長メンニッリさん(下の名前はマリオさん)が
そう言ってくれ、今回のイタリアに滞在中に行くことになった。
私はモロッコに行く予定があり、
一週間イタリアを離れなければならず、
モロッコ後にアブルッツォに訪問するを約束をした
#そのモロッコでもすごいものを見せられて帰ってきた、後で役にたちまくっている
モロッコで食あたりし大変な目に合いはしたが
アブルッツォにいよいよ行くことになり
県庁所在地ペスカーラをまず目指した。
駅が港のすぐそばで、
ナポリに長く住んでいたが、ナポリの雰囲気とは全く違う。
ナポリが古都にある港町なの対し、ここは新都市にある都会の港町。
雰囲気全然違う!
内陸に入ると高い山が多いそうで
水がおいしく、このペスカーラ近郊はパスタのメッカとして
南イタリアのグラニャーノと同じぐらい製麺所の多い地区なんだそうだ。
製麺所はここから更に電車で30分ほどかかるところにあるらしい。
着いたのは夕方だったので電話をしたら
マリオさんが明日の朝迎えに来てくれると言う。
翌朝、時間通りに来てくれ、
製麺所に直行、
到着すると、イメージが全然できていなかったが、
一見、これが製麺所かどうか?全くわからない古い建物だ。
どうぞと言われ入ると、
従妹のティータさんという秘書らしき人がおり、
笑顔で歓迎してくれた。
入るとすぐパスタが買えるような直売所になっている。
あとでよく見たが、
様々な型のパスタが様々な原料(小麦だけでない!)のものがある。
目を皿のようにして見た!
その直売コーナーを過ぎると、製麺スペースは暗く、
創業者は3代前で自分の曽おじいさんから120年になり
自分で4代目なのだそうだ。
昔は乾燥機もなく、
昼は天日で乾燥させ、夜になると製麺所中に入れて
季節により炭火をおこし乾燥した、と
その炭火で乾燥していた部屋もそのままあり、
それを横目で見ながら
さらに奥に行くと、区切られた部屋があり、
その中に入ると!!!
すんごい音!
それと同時に、ここはパン屋か?
と思わせる小麦のいい香りが漂ってくる。
ちょうどペンネがカットされているところが目の前にある!
そしてすんごい湿度と暑さ!
聴覚、視覚そして嗅覚、そして触感
4感覚同時!製麺所ってこうなの?
ペンネがカットされる様を初めて見た!
粉と水を練っただけの生の生地が
ペンネの型にカットされ、その後に乾燥機に入るそうだ。
ペンネを一つ食べてごらんと、
そこにいた従業員さんが私にペンネをどうぞとくれる。
食べてみるともっちもち~~~
あら~~~
小麦の味が甘い!
これを乾燥機に入れるとカラカラになり袋に入れ保存できるわけだ。
なるほど!
乾燥機は3段階に分かれており、
①プレ乾燥(パスタの型により分数と温度が違う)
②本乾燥(ペンネなどのショートは12時間前後、スパゲッティなどのロングは30時間以上)
③後乾燥(型により違う)
と、このようになっているそうだ。
①②③の中を開けて見せてくれる。
おおおーーーーーーー👀👀👀
なるほど!こうなってるんだ!
ショートパスタの場合、中は網状になっており、
熱風の中を微動させてペンネが乾燥される。
中の具合を職人が見ながら、
粉の状態(湿度や挽き具合など)に合わせて全部の出来が変わるので、
それを職人の五感と勘で時間や温度を決めていくらしい。
オートメーションではない手作り感のある
製麺所だというのがわかった。
以前、まだイタリアに住んでいた時、
南イタリアの製麺所を見学をしたことがあり、
そことは全く趣が違う。
粉のにおいを製麺所内で感じた記憶は無し、
暑くも湿度の高さも感じなかった。
全てオートメーション。
コンピューターやタイマーで全部操作していた。
ここは、
機械(道具)こそ使うが、職人の五感と勘で作るんだ!というのが
見学をしてよくわかった。
#以前の南イタリアの製麺所を見ていたからそれも役に立った
製麺時のペンネやジェメッリ、フジッリなどの型の説明は奥深い。
型のダイスは麺が通る部分がブロンズだと麺の表面がざらざらに仕上がる
型のダイスの 〃 がテフロンだと麺の表面がつるつるに仕上がる
と教えてもらった。
世の中はソースとの絡みが良いブロンズ抜きがいい、とは言われているが
そうとも言えない。
麺の形により、ブロンズかテフロンか、
合うあわない、があるとマリオさんは言う。
僕はスパゲッティ類は断然テフロン抜きが好き、という。
ソースの絡みはうちのパスタはそんなに変わりませんよ、
噛み応え、食感が、ブロンズかテフロンで大きく違う、と言うことも教えてくれた。
まだその時、
話についていくのに必死で理論は理解できるが、
体感をしていないから、あるいみちんぷんかんぷん。
マリオさんのパスタをその後2年間食べ続け、
頭だけでなく体感でわかってきたその意味が。。。
製麺所を見学し、
いい麺、おいしい麺になるための条件が乾燥工程以外にも、
いくつもあるのがわかった。
【おいしい、いい麺になる、ならないの目安】
・原料の由来(産地・栽培法・製粉時期・麦の保管方法など)
・製粉の良し悪し(製粉は製麺所がやるわけではないのでどのような製粉所で製粉されたものかにより、粉の粒度が変わり麺になったときに味と食感に影響する)
・水と粉を合わせてからの練り工程のやり方と時間
この見学で製麺所での影響はこのような目安があるということがわかった。
マリオさんは上記について他大メーカーとの違いを判りやすく説明してくれた。
#大メーカーができないことをマリオさんはやっている
製麺所の見学後、マリオさんの麺を実際に食べてみようと
すぐに実際に調理してもらい食べてみた。
海のすぐそばにある製麺所なので、海産物を使った塩味のスパゲッティが出てきた。
見た目が一般のものと違う、ぐらいはわかった。
・麺の色あいが全然違う(一般のはもっと濃い黄色いだかマリオさんのは白っぽい)
・茹で上がった麺が、今まで食べていたものとは、なんかが違う(パスタの色味が違うことで全体の雰囲気もなんか違う)
・嚙むと固くない。「アルデンテです」とのことだが、ゆで過ぎってわけでもないのに
今までのようにツルツルするわけでもシコシコするわけでもない。なんだこりゃ????
しかし、おいしい?たしかにおいしいが、よくわからない。。。。
感動のおいしさ!!!っていうほどではない正直。。。。(苦笑)
そして早口のマリオさん、
すんごいおしゃべりで機関銃のように話すのをついていくのがやっとだったが
聞き取れたのが
①いまイタリアでは小麦アレルギーがとても増えている。
父から継いでしばらくして「小麦」以外の原料のパスタを製造してくれ、
という依頼がちらほらくるようになり、それに対応しつくるようになった
#大メーカーには簡単にできない
②パスタ用の原料自体が「硬質小麦(ディラム小麦)」の過剰な品種改良のため、
人の身体が受け入れられないものになっている、つまり消化しにくい成分構造になっている
③小麦と水をこねて乾燥させるための乾燥工程の温度が高すぎる影響で、
小麦に含まれる成分・タンパク質(グルテン)をはじめ全ての成分が変質し
人が消化しにくい身体が受け入れられないものになっている
④栽培での農薬や化学肥料、また小麦の粒がパスタになるまで、
そしてパスタに加工されてから、輸送まであらゆる工程で
薬剤(農薬・除草剤・虫駆除剤・カビ防止剤・etc)を使用、
それが原因で化学物質過敏症・アレルギーが増えているのは間違いない
とまあ、このよう解説してくれた。
#まだグルテンフリーなどと、日本では全く言われていない時代の訪問(2004年)
イタリアではそれらの複数の要因が人に影響し、過敏症・アレルギーが増え始めているらしい。
マリオさんは、
大メーカーの廉価な値段にはかなわないので、
価格ではなく質で差別化をし始めたと言っていた。
いま自社で製麺している全体の80%がオーガニック認証のある小麦や他の穀類で、
全体の50%は新品種の硬質小麦(ディラム小麦)以外のものを原料に製麺している、と言う。
そしてこうも言った。
間違いなくこの流れは日本にもやってくる。
いまイタリアの生産者は過剰に品種改良されたパスタ用小麦の生産が9割以上。
僕の経験から、
これらの原料で作ったパスタの輸入は考えないほうがいい、
とはっきり言われた、
やるなら古代小麦だよ!と。
古代小麦?
古代米ってのもあるから古代麦もあって当然かとも思いながら聞いていたら、
古代小麦は千年単位の昔から存在する麦を現在までつないできた品種で、
このアレルギーが増え始めているイタリアでいま注目の原料だとマリオさんが言う。
やるなら古代麦のうちの製麺したパスタだよ!と。
これら全て2004年当時、
私の経験の中には全くないことばかりで、
全ての事に驚いたののだが一番驚いたのは価格だった(笑)
「いったいおたくの古代小麦のパスタは1袋、おいくらなの?」
そして
え!!!!!!
一般小麦(過剰改良種)の3倍もするではないか!
頭で計算したら、いったいそんな高いパスタ、誰が買うんだ!(日本で)
高嶺の花か~~~~と
いいパスタ、おいしいパスタと言われているものを
輸入するのは相当難しい現状であった。
輸入の壁高すぎ!
次号に続く