新『アサクラパスタ』物語/その③別次元のパスタ

マリオさんの製麺所からの帰りは、

 

全く覚えていない。

とぼとーぼと、

 

たぶん、その値段の衝撃に落ち込み、

輸入は不可能、半ばあきらめてアブルッツォから

 

滞在先(その時はナポリの友人宅)へ戻ったのだと思う。

 

 

いいパスタ、おいしいパスタをやるんだ!

と意気揚々とアブルッツォに出かけたが、

 

現場に行って撃沈。

 

 

現代の『パスタ事情』を事細かに聞いてしまった。

 

そして、

自分が知りたかったこととは別次元の違う事実を知ってしまった。

 

 

パスタ、

そりゃ、たべますよ、私も。

 

 

その時は渡伊する以前にアルバイトしていたイタリア料理屋に戻り、

オルチョをやりながら、夜はアルバイト生活だった。

 

 

そこでの賄はもちろんパスタ。

シェフの作るパスタ、あ~おいしい!って食べてた。

 

おいしいソースに絡めた麺なら、

なんでもおいしい、っと思って食べてた。

 

 

アルバイト先のシェフが使っているパスタは〇〇〇〇コ。

誰もが知っている、イタリアの有名メーカーのあれだ。

 

 

マリオさんに一つ興味深い話を聞いた。

 

アブルッツォは高い山がそびえ、

ユネスコ認定の国立公園もある自然豊かで水が豊富で美味しく、

 

また海沿いは適度な湿気があり、

製麺するにうってつけの気候風土なんだそう。

 

そのため、

製麺所がたくさんあり、有名メーカーが軒を連ねるんだそうだ。

 

その中には、私がアルバイト先で食べている〇〇〇〇コもあり、

マリオさんの曽おじいさんとほぼ同時期の創業なんだそうだ。

 

 

どちらも同じような製法と機械で製麺し、徐々に規模を拡大。

一方は豊富な資本力のおかげで世界的な誰でも知るメーカーとなる。

 

しかし、

うちはそうはならなかった、とマリオさん。

いろいろな事情を聞かされた。

 

企業というのは、経営手腕が規模を左右し、

大きくなるにつれて資金力と共に拡大することができる。

 

しかし、

大きくなることにより手放さなければならないものもある。

うちの製麺所は資金もなく、拡大するつもりもなかった、

 

これまでの製法・機械を一貫して守り、

人に安心安全でおいしいパスタを提供し続けることを使命として

家族経営でやってきた。

 

手放してはいけない大事な技術を誇りに思う。

 

負け惜しみでなく、おじいちゃん、父、

家族の選択を誇らしい、とマリオさんが

晴れ晴れとした顔で語っていたのは印象的だった。

 

 

マリオさんの言う、

マリオさんにとっての大事なものを手放した大メーカーの

麺を私、会津のイタリア料理店のアルバイトの賄でいま、食べている。

 

 

不思議な境遇だな~私も。

その賄を食べながらしみじみ思った。

 

 

しかしながら、輸入は無理そうだ~~~と

思った、半ばあきらめた時から

 

もらったサンプルのパスタを見て、途方に暮れ、

出来ることなら、見たくない!

 

 

しかし、向き合わねばならぬ。(と言い聞かせ)

 

お土産にもらった数種の型と小麦(原料)違いの麺を、

ショートとロング、よくよく見てみる。

 

乾麺の状態から今までのものとは違うのが

よくわかる。

 

見た目がこんなに違うものなのか、

これが粉の違いであり、型抜きの違いでもあり、製法の違いでもあり、

複雑な要因が重なってこのような見た目になるんだな。

 

 

袋を開ける前、

パスタ表面の粉が吹いたものが袋の底に落ちてる。

ビニール袋の表面にもパスタから吹いた粉が薄ーく付着している。

 

こんなパスタ、日本で売ってるのを見たことない!

 

乾麺で見え方が違う、を

ゆでる前、袋に入った状態でよく見ると判る。

 

今までのものとは別次元のパスタだというのがわかるが!

 

 

しかし、しかし!

高すぎる!

 

売価は、一般品の3倍になる。どう考えても。

 

こんなのやれるわけがない!

 

と、半ばあきらめた(過去形)私。

 

 

自分でも実際、日本でゆでてみて更に輸入の実現は遠のいた!

 

 

ロングパスタはやっぱりブロンズでしょう、と

ブロンズの表面ざらざらのスパゲッティをゆでるが、

 

なんとなんと!

 

ゆで汁が、全部白くなっちゃう。

溶けるーーーーーー

 

麺が溶けてる!

 

イタリアでゆでてもらったときには

ここ迄ならなかったように思う。

 

日本の軟水だと、更に溶けやすいのか!

 

ひゃ~~~

どろっつどろっつ💦

 

そして引き上げてみるも、

なんだか、もったもったと、

麺の表面から溶け出たもので糊状になってる💦

 

ゆで時間も、一般品に比べ格段に短い。

だから今までのようなつもりでいると、茹ですぎる。

 

なんだこりゃ~~~

 

 

ショートパスタは、まあそこまでひどく溶け出すほどではなく、

そこそこに食べられるが、

 

ソースと絡めてみると、やっぱり今までのと違う。

 

ゆで時間を自分で見極め(なにせゆで時間なんて書いてませんからラベルに)

手で触って、そして噛んでみて

よさそうなところでざるにあげるのだが、

 

その後も、どんどん火が通るような感じだ。

 

 

スパゲッティは、そもそも?もしかして?ゆで湯が足りない?

 

 

茹でるお湯が少なすぎるのかも?

とお湯をかなり多めにしてやっと、

どろっどろ、にはならないことがわかった。

 

 

こりゃ、相当茹で湯を今までのパスタより多めでないと

ダメだというのがわかった。

 

ソースに絡めていてもどんどん火が通っていくこのスパゲッティ。

自分が、『よしっ』と思ったもっと手前でざるにあげないと、

 

アルデンテの見極めが、難しい。

 

この麺は、手打ちの生の蕎麦と同じだ!

見た目乾麺だが、生麺と思っていい。

 

 

何度も何度もやるが、難しい。

 

 

サンプルをオルチョの取引のあるフランス料理のシェフや

料理上手な人に食べてみて、と

複数人に食べてもらったのだが、

 

 

誰からもなにも返事がない。

 

怖くて返事も聞けなかった(笑)

 

 

マリオさんはメール(根っからの職人・メカには精通しているがネットはからっきしダメ)

ができないので、

聞きたいときはファックスだ!

 

 

そして返ってくる答えもファックス。

めっちゃ癖字で、なんて書いてあるか解読不能( ;∀;)

 

 

これには参った。

仕方ないので国際電話だ(2004年当時はまだ国際電話は高額であった)

 

 

これこれしかじか、

うまくゆでられないのはなぜに?

 

 

マリオさんは日本が軟水、ということを踏まえ

 

・ゆで湯を思い切って今の倍に(どんだけ少なく茹でてたかもこれは日本人全員に言える)

・茹で上がったときに差し水をする(茹でOKのタイミングでそれ以上、火が入らないように水を加え加熱をストップさせる)

・次回はテフロン抜きのスパゲッティを食べてみてと(テフロンはブロンズ程、溶けにくい)

日本の軟水にはテフロン抜きが絶体いいはず

 

とこのような返事が来た。

 

 

テフロン抜きのスパゲッティをもらってこなかったのが悔やまれた。

次回のイタリアに行ったらテフロン抜きを買ってこなきゃ。

 

 

マリオさんの低温乾燥パスタと格闘する毎日毎日だった。

 

                次回に続く