★12月号 イタリア料理の今と昔

2023年12月号通信

コラム内容

イタリア料理の今と昔

   秋のイタリア滞在中、私のイタリア料理の師匠、オリーブオイル・アックアサンタの生産者でもあるアントネッラさんと家庭料理談義で盛り上がりました。

秋の収穫時はとてもストイックで毎日ほぼ昼だけ一食。夜は食べないで寝るか、作り置きしたミネストローネか味噌汁だけの食生活でした。アントネッラさんは料理上手なので彼女宅でご馳走になる料理がイタリア滞在の楽しみの一つです。自宅がリフォーム中の為、仮住まいでの料理は思うようにいかないと不満げでした。料理するにはそれなりの台所環境と道具が必要と力を込めて言います。仮住まいでの一番の失態は八十年だったか年代物の天然酵母をダメにしてしまったこと、と非常に悔しそうでした。陶器に入った酵母は継ぎ足し継ぎ足し、うなぎ屋のたれのよう。フォカッチャやピッツアなどを作る為の日常の大事なものでした。その話から豆麦の生産者クリスチャン宅の話に飛びました。新もののレンズ豆を試し煮することになり、私にとってレンズ豆は今ひとつわからない食材なので是非おいしい食べ方を教えてと懇願したら、米と合わせる料理はどうかとの提案がありました。つくり方を聞くとあまりにシンプル過ぎ、聞いてもそそられることもなく、しかし台所の材料は乏しく結局それになりました。予想に反し、出来上がったその料理は意外な美味しさでした。

私達が食べているとご近所さんが(勝手に)入ってきて(笑)皿の中身を見るとしかめ面で「そんな貧乏くさい料理・・・」と失礼なことを言うではありませんか。その顛末をアントネッラさんに語ると、その料理は戦前戦後にイタリア人がよく食べていた料理だそうで、おいしいの知ってるわ、と私の感動を理解してくれました。レンズ豆を水煮し別に炊いた米と合わせてさっと煮た塩味だけのものにオリーブオイルをかけて食べます。搾油したばかりのアサクラオイルをたっぷりかけて食べたら何とも言えない地味深い美味しさで私は山盛りおかわりしました。贅沢で美食系のおいしい食材が山盛りのイタリアです。こういったシンプル過ぎる料理は忘れ去られようとしています。

アントネッラはこうも言いました。ミルクを泡立てたカプチーノも、バールの皆大好きなクロワッサン(コルネット)も近年のもので、もともとイタリアにあったものではないと。イタリア人皆大好物のラザニア(オーブン焼きパスタ)やカルボナーラもみんな戦後のものだそうです。昔はそんなもの食べていなかったという。私たち日本人がいわゆるイタリア料理と思っているものは全部近代料理なのだそうです。

オリーブオイル使い方教室ではシンプルな料理でオリーブオイルの力を実感してもらうために限りなく削ぎ落とした材料とつくり方で料理します。ブロッコリーとオリーブオイルと塩だけ、とかトマトとオリーブオイルと塩とオレガノだけや、豆と少々の野菜だけ、など… 料理教室でつくる料理はアントネッラさんからの影響や私がイタリアで食べて心に残った料理のシンプルなものが多く自然にイタリアの古典的な料理を紹介しているのかもしれません。

いつか二人で南イタリアの古典料理研究の旅をしたいね、と五年ほど前から言い合っていますがいつ実現できるのか?年末にはアントネッラさん宅が完成するので来年はイタリアでの料理講習を再開したいと思っています。イタリアの古典料理を、現場で五感を使って感じていただきたいです(れ)

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レシピ:からすみソース

★12月のクローズアップ

コラボセット第16弾